飲酒運転撲滅に向けた各交通業界での取り組み ~自転車、電動キックボード、航空、鉄道、船舶、水上バイクでも~

日常生活の中で、何かと交通事故の話題を耳にすることがあるかと思います。ニュースで取り上げられているだけでもかなりありますが、ニュースになっていないものを含めると、全国でかなりの数の交通事故が起こっています。中でも「飲酒運転」は、社会的な責任含め重い罰が課されます。ちなみに「飲酒運転」という言葉を耳にして、自動車運転に関するものというイメージさせる方が多いのではないでしょうか?本コラムでは「飲酒運転」が適用される各交通業界に関して概要をご紹介するとともに、昨今話題になっている電動キックボード、水上バイクに関する飲酒運転取り締まりの状況なども解説します。

  • 2022/09/08 公開

目次

  1. 1. 各交通業界のアルコールチェック義務化動向
    1. ①自動車運送業(緑ナンバー)
    2. ②航空業界
    3. ③鉄道業界
    4. ④船舶業界
  2. 2. 意外と見落としがち、自転車での飲酒運転と罰則
  3. 3. 話題の電動キックボードも飲酒運転の対象?
  4. まとめ


1. 各交通業界のアルコールチェック義務化動向

2022年4月に施行された白ナンバー車(社用車)のアルコールチェック義務化およびアルコール検知器の使用義務の延期が話題になっておりますが、飲酒運転撲滅に向けた取り組みは、各交通業界では先行して始まっております。2011年の緑ナンバー(自動車運行事業者等)を皮切りに、2019年には、航空・鉄道、2020年には船舶においてもアルコール検知器の使用義務化が既に始まっております。



①自動車運送業(緑ナンバー)

・アルコール検知器の使用義務化(2011年5月)

事業用自動車の運転者の飲酒運転を根絶するために、旅客自動車運送事業運輸規則及び貨物自動車運送事業輸送安全規則の改正等により、緑ナンバー(自動車運送事業者等)のアルコールチェックの義務化が始まっております。運送事業者が運転者に対して実施する点呼において、運転者の酒気帯びの確認をする際にアルコール検知器の使用することが義務付けられています。


・遠隔地におけるアルコール検査の実効性工業策の実施について(2013年12月)

さらに、バス・タクシー・トラック事業の運転者が、所属営業所以外の営業所においてアルコール検査を行う場合には、同営業所の運行管理者等の立ち会いを求めることとなりました。これに合わせて、所属営業所以外の営業所において乗務を開始・終了する場合には、一定の条件の下で、同営業所に設置された高性能なアルコール検知器を使用する方法を認めることとなっています。



②航空業界

・操縦士の飲酒基準を導入(2019年1月31日)

航空業界では、操縦士の飲酒基準の制定に加え、客室乗務員、運行前整備を行う整備従事者及び対空通信を行う運行管理従事者に対してもアルコール検知器での検査の義務化が始まっております。


客室乗務員等の飲酒基準の制定(2019年7月5日)



③鉄道業界

・鉄軌道運転士の飲酒に関する基準等を改正(2019年10月)



④船舶業界

・船員法施行規則が改正、アルコール検知器の使用義務化(2020年4月)

船長は航海当直をすべき職務を有する者の酒気帯びの有無を確認することを義務づけられました



2. 意外と見落としがち、自転車での飲酒運転と罰則

自動車の飲酒運転に関しては、
飲酒運転防止のために安全運転管理者が知っておきたいことにて行政処分と罰則に関してご紹介させていただきました。
道路交通法では、自動車だけでなく自転車でも飲酒運転を禁止しています。お酒を飲んだあと自転車に乗るという話を聞いたことがあるかもしれませんが、実は道路交通法に違反しているのです。道路交通法を参照にご紹介します。

道路交通法第65 条
何人も、酒気を帯びて車両を運転してはならない。

車両に関しては、道路交通法第2条8項に定義されております。
車両 自動車、原動機付き自転車、軽車両及びトロリーバスをいう
自転車も道路交通法上「軽車両」という扱いになり、自転車で飲酒運転してしまうと処罰の対象になります。

道路交通法第2条11項
軽車両 自転車、荷車その他人若しくは動物の力により、又は他の車両に牽引され、かつレールに寄らないで運転する車(そりおよび牛馬を含む)であって、身体障害者用の車いす、歩行補助車等及び小児用の車以外のものをいう。

・自転車での飲酒運転罰則は?

自転車で公道を走行する際は、車両としてのルールを遵守する義務があります。飲酒運転には「酒気帯び運転」「酒酔い運転」の2種類があります。自転車で罰則を受けるのは「酒酔い運転」をした場合です。酒酔い運転をした場合の罰則は「5年以下の懲役または100万円以下の罰金」と規定されています。ちなみに「酒気帯び運転」に関しては「軽車両を除く」と定められているため、道路交通法上、禁止されているものの罰則はないということになります。


・自転車での飲酒運転事故、および取り締まり状況

令和3年中の自転車関連事故(自転車が第一当事者又は第二当事者となった交通事故)の件数は69,694件で、前年より2,021件増加しています。

警察庁が発表している「自転車の交通指導取り締まり状況」によると、令和2年に自転車の酒酔い運転によって検挙されて件数は119件でした。

自転車に係る主な交通ルールは警察庁でも紹介されていますので是非ともご確認ください。


・自転車の飲酒運転でも免許停止になるの?

道路交通法の103条1項8号には、「免許を受けた者が自動車等を運転することが著しく道路における交通の危険を生じさせるおそれがあるとき」は、公安委員会は、政令で定める基準に従い、その者の免許を取り消し、又は六月と超えない範囲内で期間を定めて免許の効力を停止することができる。」

と定められており、これは自転車の飲酒運転によって「自動車の運転免許が停止」する可能性があるということになります。



3. 話題の電動キックボードも飲酒運転の対象?

・最近脚光を浴びている電動キックボード

2022年4月19日に可決された改正道路交通法により、一部の電動キックボードが2年以内に16歳から無免許で乗れるようになるようです。

電動キックボードは欧米で普及が進んでおり、警察庁は産業競争力強化法に基づく特別措置で2021年4月から、一部のエリアにおいて、国の認可をうけた事業者により貸し渡される電動キックボードの実証実験が行われており、ヘルメットの着用が任意等の特例が認められています。

現在、基準に適合する電動キックボードは原付バイク(原動機付自転車)と同じ扱いであるため、公道を走るには免許やヘルメット、ナンバープレート、自賠責保険の加入などが必要です。

今回の改正では、これらの規制が緩和され、差異はありますが自転車のようにさらに気軽に乗れるものになります。今後は施行に向けて、新しい交通ルールの周知や、特定小型原動機付自転車の保安基準に適合した製品が登場するとみられます。


・電動キックボードでも飲酒運転はダメ!

前章の「自転車での飲酒運転と罰則」でもご紹介しましたが、道路交通法では、酒気を帯びて「車両等」を運転してはならないと定められており、罰則もあります。電動キックボードは、「原動機付き自転車」に該当します。

電動キックボードによる飲酒運転などの違反が相次いでいるとして、警視庁は2022年5月25日に事業者に対策強化を要請しました。警視庁は、既に2021年12月からの実証実験で電動キックボードの酒気帯び運転8件を摘発しているとのことです(2022年7月現在)。事態を重く見た事業者は、週末24時~5時の夜間利用制限に踏み切りました。
2年以内には基本的に免許不要になる電動キックボードですが、新しい乗り物に対する交通ルールをどう徹底するか?今後の課題ともいえます。気軽さゆえの利用者の交通安全・飲酒運転に対する意識付けの啓蒙も必要だと思います。


・水上バイクの飲酒運転

水上バイクも操縦するには「特殊小型船舶免許」が必要になります。法律で飲酒操船は禁じられていますが、違反行為に罰則はありません。プレジャーボードや水上バイクなどの小型船舶の操縦に対して、一部の自治体では独自に条例で罰則を設けています。

(東京都の条例)
近年、都内の運河や河川において、一部の水上バイク等利用者による危険・迷惑な航行が問題となり、水上の安全確保が求められていました。警視庁では、これらの危険・迷惑な航行に対応するため、これまでの「東京都水上取締条例」を全部改正し、水上における船舶交通に関する秩序を確立するとともに、船舶の航行に起因する障害及び危険を防止することにより、安全かつ快適な水上及び水辺の環境を実現することを目的とした「東京都水上安全条例」が施行されています。

条例の中では、酒気帯び・酒酔い操縦の禁止等の罰則を規定されております。



まとめ

各交通業界では、業界を問わず飲酒運転は禁止されています。アルコールチェック義務化に関しても、白ナンバーの義務化に先んじて始まっています。様々な悲惨な事故を得て、法整備が厳格化されてきております。また、電動キックボードなどの新しい交通手段がでてくると、交通ルールの整備・徹底が必要になってきます。
飲酒運転に関しては、世間の意識がまだまだ低く、飲酒運転事故も根絶には至っておりません。いわゆる世間の常識の中で、緩やかな認識しかされていないがゆえに、自然と軽んじている飲酒運転常連者が存在するのも事実だと思います。
社会課題である飲酒運転の撲滅に向けて、飲酒運転が非常に危険な行為であることを十分理解した上で、運転者とその周囲の人が、飲酒運転は「しない」「させない」という強い意志を持ち、社会全体で意識を持ち続けることが重要です。これは自動車だけでなく、身近な自転車、電動キックボード、水上バイクなどでも例外ではありません。

担当M.T.