【わかりやすく】ハインリッヒの法則とは?労災事故・ヒヤリハットを防ぐ取り組みを解説

何度か聞いたことのある「ハインリッヒの法則」とは、どのような意味を持つのでしょうか。この法則は、製造業や建設業、運送業、医療、介護など幅広い現場で、労働災害を防ぐために活用されています。この記事では、ハインリッヒの法則とは何か、具体例や重大事故を防ぐ取り組みなども併せてわかりやすく解説します。

  • 2024/09/18 公開

目次

  1. ハインリッヒの法則とは?
  2. ハインリッヒの法則が導き出された背景
  3. ヒヤリハットが発生する理由
  4. ヒヤリハットの事例
  5. ハインリッヒの法則を企業で活用する方法
  6. 重大な事故を未然に防ぐための取り組み
  7. ハインリッヒの法則を活用して職場の安全を守ろう


ハインリッヒの法則とは?

ハインリッヒの法則とは、労働災害や事故の発生に関する統計を導き出した法則です。簡単にいうと、重大事故がどのくらいの割合で起こるか表すもの。この法則は「1:29:300の法則」とも呼ばれます。

これは、1 件の重大事故の裏に29 件の軽傷事故と300 件の無傷事故があることを意味しており、つまり、事故の背景にはさまざまなヒヤリハットがあるということです。ヒヤリハットとは、危険なことが起こったが災害や事故に至らなかった事象を指します。

ハインリッヒの法則は、企業が従業員の安全意識を高めるための有力な指針です。従業員全員で日々のヒヤリハットに注目し、報告・共有することで、職場の安全性向上につながります。


◾️ ハインリッヒの法則が示す教訓

ハインリッヒの法則では「重大な事故を防ぐためには日常の小さなミスやヒヤリハットを見逃さず、対策を講じることが不可欠だ」ということを教訓として示しています。

軽微な事故やヒヤリハットの情報を収集・分析し、従業員に情報共有するとともにこの段階で問題を解決することが重要です。

このような取り組みを通じて企業全体の安全文化を醸成し、重大事故のリスクを大幅に低減することができます。


◾️ ハインリッヒの法則と似た「バードの法則」

ハインリッヒの法則と似たものに「バードの法則」があります。バードの法則とはフランク・バード氏が1969年に提唱した法則で、ハインリッヒの法則を発展させたものです。

バード氏は、ハインリッヒの法則を分析し、1件の重大な事故の背後には10件の軽微な事故と30件の物損事故、そして600件のヒヤリハットが存在することを示しました。

比率の違いはあるもののハインリッヒの法則と同様に、重大な事故を防ぐためには軽微な事故やヒヤリハットに注目するべきであることを表しています。



ハインリッヒの法則が導き出された背景

ハインリッヒの法則は、アメリカのアハーバート・ウィリアム・ハインリッヒ氏が1931年に発表した著書の中で提唱されました。

この法則が導き出された背景には、ハインリッヒ氏が当時損害保険会社で働いており、労働災害を調査する中で事故の発生には一定の法則があると発見したことにあります。

ハインリッヒ氏は労働災害の調査から「1:29 :300」という比率を導き出し、後にこれが労働災害防止のバイブルとして世界中に知られるようになりました。

現在、ハインリッヒ氏が提唱したハインリッヒの法則を、厚生労働省では以下のように示しています。

「同じ人間が起こした330件の災害のうち、1件は重い災害(死亡や手足の切断等の大事故のみではない)があったとすると、29回の軽傷(応急手当だけですむかすり傷)、傷害のない事故(傷害や物損の可能性があるもの)を300回起こしている。」

参照:厚生労働省|ハインリッヒの法則(1:29:300の法則)



ヒヤリハットが発生する理由

ヒヤリハットが発生する理由は、人間の不注意や判断ミスなどが理由で起こるヒューマンエラーと、設備や機械の不具合などによるものがあります。ヒューマンエラーの発生要因は、コミュニケーション不足や油断、疲れ、焦りなどです。

たとえば「フォークリフトで荷物を運搬中、急ブレーキをかけたことで積荷が崩れて落下し、近くにいた従業員に当たりそうになった」という事例が挙げられます。

また、設備や機械の不具合は、整備不良や老朽化などが発生理由として考えられます。そのため、小さな兆候を見逃さず、適切にメンテナンスすることが重要です。



ヒヤリハットの事例

ヒヤリハットにはどのような事例が知っておくことは、自社で重大事故を防いでいくために重要です。ここからは、厚生労働省の職場のあんぜんサイトで紹介されているヒヤリハットの事例を紹介します。


◾️ 交通事故の事例

まずはヒヤリハットの事例として、交通事故の例を紹介します。

【業種】

運輸交通業

【ヒヤリハットの状況】

トラックで荷卸しを行うために、脚立をトラック後方に設置して作業した。作業終了後、運転手がトラックを出口のほうへバックさせたとき、脚立を片づけにきた作業者をひきそうになった。

【原因】

  • 運転手が「脚立が片付けられている」と思い込んでいた
  • 作業終了後に最終点検をしなかった
  • バックするときに周囲を目視で確認していなかった

【対策】

  • トラックをバックさせるときは、上下、周辺、通路などの状況を確認する

出典:厚生労働省|職場のあんぜんサイト


◾️ 墜落・転落の事例

次に、墜落・転落におけるヒヤリハットの事例を紹介します。

【業種】

ビルメンテナンス業

【ヒヤリハットの状況】

設備点検中に屋上高台部に設置されている排気ファンの異常に気づき、報告用の写真を撮影していた。後退しながら写真を撮影していたところ、屋上高台部の縁に接近しており、屋上から転落しそうになった。

【原因】

  • 定常の点検項目ではない設備に異常が見つかった際の対応手順が決められていなかった。
  • 施設管理作業者に対して、安全教育が徹底されていなかった。

【対策】

  • 設備に異常が見つかった際の対応手順を具体的に定める。
  • 施設管理作業者に対して、安全教育を徹底する。
  • 墜落制止用器具の使用などの転落防止策を検討する。

出典:厚生労働省|職場のあんぜんサイト


◾️ 転倒の事例

次は転倒によるヒヤリハットの事例を見てみましょう。

【業種】

病院

【ヒヤリハットの状況】

厨房で大鍋のお湯を流しに捨てるため、ガス台から大鍋を両手で持って運搬中、足が滑り転倒しそうになった。

【原因】

  • 重い大鍋を一人で両手で持って運んだため、足元が見えなかった
  • 厨房の床が滑りやすかった

【対策】

  • 熱湯の入った大鍋は二人で運搬する。
  • ゴム手袋、前掛け、保護メガネなどの保護具を着用する。
  • 日頃から床を清掃して、滑りやすい状態になっていないか確認する。

出典:厚生労働省|職場のあんぜんサイト


◾️ 飛来・落下の事例

最後に飛来・落下におけるヒヤリハットの事例を紹介します。

【業種】

農業

【ヒヤリハットの状況】

二人で畑のあぜ道に丸太杭を大ハンマーで打ち込む作業中、大ハンマーの頭部が抜けて飛び、丸太杭を支えていた作業者に激突しそうになった。

【原因】

  • 大ハンマーの棒と頭部の固定が不十分だったため、ハンマーの頭部が抜けて飛んだ

【対策】

  • 使用する大ハンマーを作業開始前によく確認する
  • 棒を支える人はハンマーを打ち下ろす方向の正面には立たず、90°横から支える
  • ヘルメット、保護手袋などの保護具を着用する

出典:厚生労働省|職場のあんぜんサイト



ハインリッヒの法則を企業で活用する方法

重大事故を防ぐためにハインリッヒの法則をどのように活用すればよいのでしょうか。ここからは、企業でハインリッヒの法則を活用する方法を2つ紹介します。


◾️ ヒヤリハット事例を従業員同士で議論する

実際に起こったヒヤリハット事例を従業員同士で議論することが大切です。なぜそのような事態が発生したのかを徹底的に分析することにより、従業員は自身の行動を見直し、対策を考える機会を得られます。

これによって職場全体の安全意識が向上し、事故のリスク減少につながります。可能であれば、朝礼や終礼などのタイミングで定期的に議論の場を設けるのが望ましいでしょう。


◾️ ヒヤリハットの報告制度を導入する

ハインリッヒの法則を活用する方法として、ヒヤリハットの報告制度を導入することも効果的です。ヒヤリハット情報を従業員で共有することにより、職場全体で危険性を発見でき、一人ひとりが安全意識を高められます。

報告されたヒヤリハット事例は分析をして、全社的な対策を迅速に行うことが求められます。報告制度を導入する際は、報告の手順やフォーマットを明確にして従業員に周知しましょう。

なお、ヒヤリハット情報を取り扱う際は、個人が特定されないような配慮が必要です。



重大な事故を未然に防ぐための取り組み

重大な事故を未然に防ぐために何から始めればよいのでしょうか。ここからは、具体的な取り組みを3つ紹介します。


◾️ 安全研修を実施する

安全研修の実施は、従業員の安全意識を高め、事故を未然に防ぐための基本的な取り組みとして必須といえます。研修の中でハインリッヒの法則やヒヤリハットの重要性を理解してもらうことにより、従業員は日常の業務で潜在的な危険を意識しやすくなります。

業種に特化した講習を受けるのも効果的です。たとえば、運送事業者向けに安全運転講習が実施されています。


◾️ 危険予知訓練(KYT)を実施する

危険予知訓練(KYT)とは、現場での潜在的な危険を事前に察知し、解決する能力を高めるための訓練です。具体的にはグループで危険要素を洗い出し、それに対する対策を話し合います。

危険予知訓練は、以下の4つの段階で進めます。

  1. 現状把握: 危険要因を洗い出す
  2. 本質追求: 重要な危険ポイントを絞り込む
  3. 対策樹立:意見を出し合いながら具体的な対策を考える
  4. 目標設定: 重点実施項目を選び、行動目標を設定する

この訓練によって従業員の危険感受性が高まり、チーム全体での安全意識が向上するでしょう。


◾️ AIを活用した安全管理システムを導入する

近年注目される取り組みの一つに、AIを活用した安全管理システムの導入が挙げられます。AIを活用した安全管理システムは、従来の方法では見逃しがちな危険を検出し、事故の予防に大きく貢献してくれます。

過去の事故データやヒヤリハット事例を学習して、より高精度な予測を行うことができるのがAIの大きな特徴です。AIを用いた安全管理システムの導入によって、企業全体の安全管理が一層強化されるでしょう。



ハインリッヒの法則を活用して職場の安全を守ろう

ハインリッヒの法則は、1件の重大事故の背景に29件の軽傷事故と300件の無傷事故があるという労働災害の統計を示す法則です。この法則から日常の小さなミスやヒヤリハットを見逃さずに対策を講じる重要性を学び、安全意識を高めることが求められます。

ヒヤリハットが発生する理由や事例について従業員同士で考える機会をつくり、職場全体でハインリッヒの法則を活用しながら重大な事故を未然に防ぎましょう。

なお、職場の事故を防ぐためにAIツールを活用するのも効果的です。たとえば、社用車を持つ企業であれば、アルコールチェック業務に関するシステムの導入を検討してみるのはいかがでしょうか。

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